そして外交官は、契約妻に恋をする
 ケースを差し出すと、彼女ははにかみながら片方ずつイヤリングをつける。

「さっそく明日のアフタヌーンティーにつけていきます」

 うれしそうに微笑むが、そういえば大使夫人とともに在留邦人団体の関係者に招かれてアフタヌーンティーに行くと聞いていたんだった。

 そんなつもりで贈ったわけではないが、喜んでくれるならそれでいい。

「よく似合っている」

 赤いドレスも、ネックレスとイヤリングも、なにもかも。まるであつらえたように、本当に綺麗だ。

 香乃子の美しさは内面から滲み出ている。それに気づいたのはいつだろう?

 俺の知らないところで、体調不良の女性客を介抱したりドレスを汚してしまった女性を助けていたと、スタッフから聞かされたときか。

 いや、その頃はもう気づいていた。香乃子なら当然だと思ったくらいだ。

 それなら着物姿で賞賛を浴びていたとき? それとも……。

 やはり思い当たるのはシャンパンゴールドのドレスを着たときだ。

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