そして外交官は、契約妻に恋をする
 俺が男たちを追いやると、ホッとしたように彼女は肩の力を抜いて微笑んだが、なによりハッとしたのは、俺が彼女の後ろに着いたときだ。

 彼女ははっきりと「I don't appreciate that」と断っていた。〝やめていただけますか〟と、一歩も引かずに毅然と対応していた。ピンヒールのパンプスと折れそうに細い足首。華奢でありながら、女性らしいシルエットのドレスを着て、しっかりと彼女は立っていた。

 あの日の感情が入り混じり、ふと、抱きしめたくなる。

 たまらない衝動に突き動かされ、気持ちを十分の一に抑えつつ後ろからそっと抱いた。

「こんなに素敵だとパーティーに連れて行くのが心配だな」

 多くの男たちが彼女を注目するだろう。

 それが歯がゆい。

「な、なにを……」

「ハグだよ」

 嘘だ。こんな大胆なハグはない。

 クスクス笑いながら首まで赤くする彼女を、店員の女性たちが「it's so beautiful!」と褒め称える。

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