そして外交官は、契約妻に恋をする
 フィッティングルームに戻る彼女の背中を見送り、会計を済ませて待つ間、サービスで提供されたチョコレートを口に含んだ。

 甘くて苦いチョコレートがまったりと口に広がるのを感じながら ふとカレンダーを見る。

 ロンドンに来て七カ月目に入っていた。

 過ぎてしまえばあっという間だ。日常の業務のほかに総理大臣の訪英があったり、日本人が乗る観光バスが事故にあうなどの事件もあった。窃盗被害などの犯罪に巻き込まれることも多い。そういった事件や事故は昼夜を問わず対応せねばならず、夜中の呼び出しも一度や二度じゃなかった。

 俺は外交官になると決めたときから覚悟の上だが彼女は違う。

 仕事上海外とのやり取りがあったとはいえ、聞けばパーティーは愚か飲み会にすらほとんど出席していないという。毎日が戸惑いの連続だったに違いない。

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