そして俺は、契約妻に恋をする
▼香乃子
視線の先で、しとしとと雨が降っている。
真冬の二月だっていうのに、どうして雨なの。
この様子だと帰宅時間には雪になっているかもしれない。昨夜の予報では晴れときどき曇りだったのに、今朝に限って天気予報を確認しなかった。
なんにせよ出かけなければ食べ物にありつけない。溜め息をつきつつ席を立った。
「お昼、外で食べてきますね」
「あら、珍しいわね。しかも雨なのに」
私はいつもはお弁当を持ってきている。外食はめったにしない。
「そうなんですよ。よりによってお弁当を忘れてきた日に雨だなんて、がっかりです」
「あら、今日はついてないわね」
笑う先輩に励まされ廊下に出る。
混み合うエレベーターを避け、寒い階段から三階分下りて、一階ロビーを通り抜け正面の自動ドアから外にでる。見上げる空はどんよりと暗く、活気づいているはずの表通りも沈んで見えた。
なにか美味しいものでも食べれば、いくらか気分もあがるはず。