そして外交官は、契約妻に恋をする
 半ば強引に結婚したため、俺に責任がある。彼女が辛い思いをしていないか、寂しい思いをしていないか。ずっと気にかけてきたつもりだが、どうだろう。十分にフォローできているのかどうか。

 なにしろ彼女は我慢強く、弱音を吐かないから不安は残る。

 コーヒーカップを取り、口の中のチョコレートをコーヒーで流す。

 かつてイギリスではコーヒーハウスに女性は入れず、コーヒーは男だけの愉しみだったらしい。そのせいでコーヒーが一般家庭に普及せず紅茶文化になったとか。

 どうでもいいことを考えながら、香乃子は紅茶が好きだったなと思い出した。キッチンには様々な紅茶が並んでいる。

 この後カフェに誘おうか。数件隣に紅茶によく合うスコーンが評判の店があったはず。

 つらつら思ううち、香乃子が試着室から出てきた。

「疲れただろう?」

 十着ほどドレスを試着した彼女は「少しだけ」と微笑むが、表情は疲れて見える。

 店員に見送られて通りに出ると、来たときには晴れていた空もすでに雲が広がっていた。

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