そして外交官は、契約妻に恋をする
 この手の温もりは消えてしまう。

「香乃子」

 本当のところどう思っているんだ?

「はい?」

 キョトンとした顔で見つめられ、苦笑した。

「仕事で渡航したことはないのか?」

「うーん、ないですね。家族ででしか。真司さんは?」

「俺は学生時代にあちこち行ったよ。友だちと気楽なバックパック旅行をね」

「うわー楽しそう」

 香乃子は瞳をキラキラ輝かせる。

「私も男だったらやってみたかったなぁ」

「そうだな、女性のバックパッカーもいるが。香乃子は、ダメだ」

「えっ、どうしてですか?」

 睨む彼女の鼻先をつつく。

「ど・う・し・て・も」

「ひどーい」

 怒り出す彼女をふざけて抱え込んだ。

「きゃ、な、なにを」

「ほら、簡単に捕まるだろ?」

 想像しただけで心配で堪らないじゃないか。と笑いながら胸の内で答えた。

「私も自信ないからいいですけど」

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