そして外交官は、契約妻に恋をする
 笑い合いながら、まるでハリネズミのジレンマだな、と思う。

 暖をとるために近寄るとハリが刺さって痛い。だが離れると寒くてまた近寄る。痛い思いをしながらちょうどいい距離を探し当てる。

 香乃子の負担にならないように、俺に心を開いてくれるように。今は手を繋ぐのがやっとという俺たち。

 夕べ東京にいる学生時代の後輩で友人の、氷室仁から電話があった。

 仕事でロンドンに来るという話だったが、ついでに彼が言った。

『どうですか? 純情な奥さんとは上手くいってます?』

 上手くはいっている。――だが。

『しかし、どうしてこうも俺の周りは恋愛音痴しかいないのかな。仕事はできるのに』
 と、仁は笑う。

『真司さん。難しく考えすぎですよ。一年経ってもこのままずっと、一緒にいたいんですよね? だったら答えはひとつしかない』

『ひとつ?』

『ええ、頑張ってください』
 
 そんな簡単なことなのか?


『〝愛してる〟たった五文字ですから』
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