そして外交官は、契約妻に恋をする
 俺は仁のように恋愛上級者じゃない。手探りで進めるしかなくて、もっともっと時間がほしいんだ。

 さっき、ふいに抱き締めたいと思ったあの感情はなんなのかと、自分に問い掛けてみた。

 ただの性的欲求なのか。溢れ出る愛情によるものなのか。

 中学生でもあるまいし、こんなことで悩むとは。

 苦笑しながら見上げた空に飛行機が見えた。もし、あの飛行機に香乃子がひとりで乗ってしまったら――。

「あ、飛行機」

 雲の合間から見える飛行機を、香乃子が目を細めて見つめる。

 たとえこの、時折胸を焦がすような感情に答えがだせなくても、これだけは言える。

 それはダメだ、香乃子だけを帰すわけにはいかない。

 この手だけはもう離さない。そう思いながら握る手に力を入れた。




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