そして俺は、契約妻に恋をする
 気を取り直し傘をさして歩き出すと、思ったほど寒くはなかった。降っているのは雪ではなく雨だ。気温は低くないのか納得し、縮こまった肩の力を抜く。

 今日はついてない、か。

 先輩がそう言うのも当然で、今日は朝から失敗続きだ。

 原因はわかっている。ついてないわけじゃなく、すべては昨日のせい。

 お弁当を忘れてしまったのも、朝一番で大事な書類にコーヒーをこぼしてしまったのも、気持ちが浮き足立っているから。

 桜井香乃子、二十七歳。私は昨日、お見合いをした。

 お相手は神宮寺真司さん。三十一歳。曇りを知らない綺麗な瞳の素敵な人。写真で見たときよりも、数倍魅力的な人だった。

 微笑むと長い睫毛が黒目を隠して、ふんわりと優しい表情になる。

 すらりと背が高くて、一六〇センチの私よりが彼の肩までしかなかったのだから一八〇センチはあって、スタイルも抜群。あそこまでパーフェクトな人は、ここ東京でもなかなか見かけない。

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