そして外交官は、契約妻に恋をする
 次に立ち寄ったのは、イギリスのある詩人が〝イングランドで一番美しい村〟と讃えたバイブリー。十四世紀に立てられた石造りのコテージに興奮を隠せない。

「真司さん真司さん、アーリントン・ロウですよ! すごくうれしい!」

「そうか。よかった」

「一緒に写真撮りましょうよ、真司さん」

 今日ばかりは素直な気持ちで彼と楽しもう。恋人同士のように頬を寄せ合って、アーリントン・ロウを背景に写真を撮る。

「どれどれ」

 二人とも満面の笑みで「楽しそう」と笑い合う。

 冬なので観光客は少ないが、日本人の観光客らしき人も見かけた。

 スリや窃盗などの被害にあいませんようにとつい心配してしまう。自分が一旅行者だったときはそんなふうに考えたりしなかったはずが、外交官の妻という自覚がいつの間にかついたようだ。

 ふと若い日本人のカップルが目に留まった。男性はスマホショルダーを首から下げている。

 真司さんも同じ男性に目を留めたらしい。私に待つように言うと、彼に近づき声を掛けてから戻ってきた。
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