そして外交官は、契約妻に恋をする
 日本人を守るという意識を忘れない彼を、私は尊敬している。束の間とはいえ彼の妻だというのが誇らしい。

「ところで香乃子は、男の撃退が上手いな。誰かに教わったのか?」

「え? 上手い?」

 上手いと褒められても、なんのことだかわからない。何度か男性のナンパを断っているが。

「ほら、この前シャンパンゴールドのドレスを着ていたときだ」

 あ……。

「毅然としていてかっこよかった」

 彼が助けに来てくれてどれだけホッとしたか。

 ほぼ同時に周りにいた女性も助けに入ってくれたからよかったが、正直怖かった。もし彼らの手が伸びてきたらどうしよう。パーティーで悲鳴をあげるわけにはいかないし、ピンヒールで素早く動ける自信もなかった。

「奴らは許せないが、君がはっきり断っていて感心したよ」

「実は、ナオミさんに教えてもらったんです」

 ロンドンに来て間もない頃だ。とあるレセプションで酔った男性客に絡まれた。客は庭で星を見ようとしつこく誘ってきた。

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