そして外交官は、契約妻に恋をする
 ちょうど真司さんは要人と話をしていて、私に背を向けていた。

 こんなときはどう対処したらいいのか。無碍に断って客を怒らせて問題になっては真司さんにも迷惑をかけてしまう。途方に暮れていたところに現れたのがナオミさんだった。

 彼女は毅然と「NO!」と怒り、客は呆気なく引き下がった。

『こんなところで事を荒立てたくないのは、むしろあの客のほうなのよ。あの男はね、あなたなら強引に言えばなんとかなると甘く見ているの。遠慮はいらないわ。キツく断りましょう』

 彼女は厳しい表情や、断る態度までよく教えてくれたのだ。

「――というわけで、それからは真司さんが隣にいないときは、絶対に隙を見せないぞ!って構えているんです。今ではほとんど絡まれないですから。この前は、たまたま」

 黙って聞いていると思ったら彼はショックを受けていたらしい。「ごめん」と絶句する。

「そんなことがあったのか。俺、知らなかった」

「えっ?」

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