そして外交官は、契約妻に恋をする
 真司さんは不満たらたらだけれど、お義母様の気持ちは分かる。リージェントストリートのクリスマスイルミネーションをはじめ、十二月のロンドンは街がラッピングされたように綺麗なのだ。

「私がロンドンをご案内しますよ」

「いや、いいよ大丈夫。勝手に見て回るから。君だって疲れているんだから」

 とか言いながら彼はガイドを探そうとしているのがみえみえだ。

「大丈夫です。二日間だけですし」

 半ば強引に案内を買って出た。



 そして三日後。お義母と、お義母の友人の娘さんが来て真司さんと私はヒースロー空港に迎えに行った。

「こんにちは、香乃子さん。こちらイチノセキリカさん」

「リカです。お世話になります」

「ようこそロンドンへ」

 挨拶を済ませてから思い出した。

 一ノ関李花……。真司さん宛てのエアメールに書いてあった差出人の名前である。

 ざわざわと胸がざわめく。そうある名前じゃないから、手紙の主は彼女に違いない。なぜ、お義母の友人の娘さんが彼に手紙を送ってきたのか。

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