そして外交官は、契約妻に恋をする
 手紙の主は、もしや彼の恋人かと思っていたけれど……。

「お久しぶり真司さん。お変わりありませんか?」

「おかげさまで」

 気にしちゃいけないと思うのに、チリチリと胸が痛い。

 車のトランクに荷物を載せて、ひとまず私たちのフラットに招いた。

「どうぞ」

「おじゃまします」

 真司さんが李花さんをどんな目で見るのかが気になり、視線を追いそうになって慌てて横を向いた。

 そんなことを気にする余裕はない。

 今日はこれからランチにでかけて彼女たちをいったんホテルに送り、夕方私だけが迎えに行き夜のロンドンを案内してディナーを済ませまたホテルに送る予定だ。失敗のないように頭の中で手順を確認する――。

 コートを預かり「どうぞ」と、ソファーを薦めた。

 お義母様と李花さんが道中の話をはじめると、なんとなく入れない雰囲気を感じ、私はそっとキッチンに移動して紅茶の準備をはじめた。

 お湯を沸かしながら彼女たちの話を聞くとはなしに耳を傾けた。

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