そして外交官は、契約妻に恋をする
 真司さんは喜んで当然だと言うが、実は喜ばせるどころかむしろ怒らせてしまった私は気が重い。

「もしかして気にしている?」

 ハッとして振り向くと、彼が私を見ていた。

「母から聞いたよ、毛皮のコートの件」

 あっ……。

 真司さんに報告するつもりでいたが、お義母さんに心配かけたくないからと口止めされていたのだ。

「すみません、私がもう少し強く忠告しておけば」

「――君のせいじゃない。むしろ申し訳ない。立ち向かってくれたそうじゃないか」

「それはいいんです。でもショックだったでしょうし。今回の件でロンドンを嫌いにならないでくれるといいんですが」

 襟を豪華な毛皮で飾った、李花さんのコート。

 タクシーでホテルに迎えに行ったとき、着替えた李花さんが羽織っていたコートの襟がシルバーフォックスの毛皮だった。

 悩んだが嫌な思いをせずに済むよう、『あの……ロンドンでは、そのコートはやめたほうがいいかもしれません』と、李花さんだけに聞こえるようそっと忠告した。

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