そして外交官は、契約妻に恋をする
 それなのに今回はどうしちゃったんだろう。

 クリスマスシーズンの今、今夜だけじゃなく明日の夜もレセプションがある。寝込んでいる場合じゃないのに。

 情けないな。外交官夫人の自覚が足りなかったかな。

 熱でぼうっとする頭で、李花さんを思い浮かべた。

 彼女とお義母さまはまるで家族のようにとても仲がよくて、私が入り込む余地なんてまったくなかった。

 彼女と真司さんの間にも、私の知らない歴史がある。

『真司さん、これ好きでしょう? 持ってきたわ』

 彼女が差し出して、真司さんが喜んで受け取っていたのは奈良漬けだった。

 彼が奈良漬けが好きだなんて知らなかった。

 私は奈良漬けが嫌いなわけではないが、いつ食べたのか思い出せない。そのくらい親しみがなく、ここが日本でも私は食卓には出さなかったと思う。彼が好きだとも知らぬまま。

 食に限らず、私が知らない多くを彼女は知っているんだろう。

 そういえば彼の趣味はなんだろう? 休日に部屋に籠もっているときは、なにをしているの?

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