そして外交官は、契約妻に恋をする
 ふたりで旅行してうれしくて、舞い上がっていた。ちょっと距離が縮まった気がして浮かれてバカみたい。

 一緒に暮らして、私は彼のなにを知っているの? いったいなにを。

 目もとが熱くなりハッとして指で涙を押さえる。

 悲しいのは熱があるからだ。体調が悪くて心細いだけ。本当に悲しいわけじゃない。

 休もう。とにかく今は、ゆったりと休もう。

 そう思ううちいつしかぐっすりと寝入ってしまったらしい。額にヒヤリとしたものを感じて目を覚ました。

「あっ」

 目の前に真司さんの顔があり、慌てて起き上がろうとして止められた。

 彼はアイス枕を交換してくれる。

「ありがとう、ございます」

「いくらか下がったようだが、まだ熱があるね。どう?」

「随分楽になりました。すみません……忙しいのに」

 来ないでいいと連絡するはずが、私ったらあのまま眠ってしまったのか。

「いや、大丈夫だよ。このまま午後は休みを取ったから心配しなくていい」

「えっ? そんな」

 彼は首を振る。

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