そして外交官は、契約妻に恋をする
「休む理由ができて助かったよ。どうしても今やらなきゃいけない重要な案件があるわけじゃない。俺もちょうどゆっくりしたいと思っていたんだ」

 にっこりと微笑む彼は「だから心配しないで大丈夫だ」と布団を直す。

 戸惑いつつ思わず頬が緩んでしまう。

 正直な気持ちを言えば、とってもうれしい。眠る前に私を襲ってきた悲しみが、彼を前にしてすっかりなりを潜めたようだ。

「食欲はどう? なにか食べられそうかな」

 まだ食欲はないが、食べなければ早く元気になれないしと考えて冷蔵庫ヨーグルトがあるのを思い出した。それを彼に頼む。

 汗をかいたせいか、頭はすっきりとしている。あと一日くらい休めば体調は戻りそうだ。具合が悪いせいでよからぬことばかり考えてしまったが、元気になれば私は平気。まずは体調を取り戻すのが先決だ。

 目を閉じてゆったりと呼吸を整える。

 加湿器から噴き出す蒸気にアロマオイルが含まれているようだ。スパイシーな香りがして、喉が気持ちいい。

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