そして外交官は、契約妻に恋をする
 なんでもいいから、とにかくすぐにでも結婚を決めたそうだった。

『一年だけでもいい』

 私の憂鬱な気分を見透かしたように、そう言ってきたのには驚いた。なにが一年なのか意味が掴めず戸惑う私に、彼はなおも続けたのだ。

『誰かと結婚しない限り縁談を押し付けられる。君もそうなんだろう? それならいっそ、形だけの夫婦にならないか?』

 彼は、恋とか愛とか浮かれた気分とは対局にいるような真剣な目をしていた。

 そこまで私は割り切れない。

「はぁ……」

 ひとりで外食という気分になれず、何か買って帰ろうとコンビニの前で立ち止まると、「香乃子ー」と呼ぶ声がする。

 振り向くと仲のいい同期の山本梨絵子ことリエちゃんが傘を揺らして走ってきた。

「一緒に食べようー」

 追いつくなり私の腕を掴んだリエちゃんは小声で「どうだった?」と聞く。

 彼女にはお見合いの話をしてあったので、興味津々らしい。

「うん。多分決まりそう」

< 7 / 236 >

この作品をシェア

pagetop