そして外交官は、契約妻に恋をする
 ふとベッドサイドを見ればキャスターつきの棚の上に洗面器とタオルがあった。手を伸ばして触ってみると水は温かく、体を拭くために持ってきてくれたようだ。

 こんなにいろいろ気が利くなんて、真司さんは随分まめな人だなと感心していると、部屋のドアがノックされて彼が入ってきた。

 手にしたトレイにはヨーグルトのほかに、カットフルーツが入ったガラスの器がある。

「君はくだものが好きだから、食べるかなと思って」

「ありがとう」

 うれしい。遠慮して言わなかっただけで本当は食べたかった。

「病院はどうする?」

 笑って、ふるふると首を振る。

「風邪くらいで行ったら、こっちの人に笑われちゃう」

 確かに、と真司さんと笑い合う。

 イギリスは医療費が無料である代わりに、症状によってはすぐに予約が取れず先延ばしにされてしまう。待っているうちに治ってしまうくらい長く。資産家は全額負担のプライベート医療に頼る。

 だが一般的には、風邪ならば寝て直せというスタンスだ。

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