そして俺は、契約妻に恋をする
 この地において、毛皮の使用については注意が必要だと以前話をしてあるから香乃子は知っている。なのに本当に彼女は李花に忠告しなかったのだろうかと疑問に思ったが、やはり違った。

『すみません、私がもう少し強く忠告しておけば』

 言い方からして、忠告はしたが軽く流されてしまったんだろう。

 香乃子は強く自分の意見を押し付けたりはしないから、聞き入れられなければそれきりにしたはず。今回の経緯を予想するに、おおかたそんなところか。

 相手は若い女ひとりだったようだ。罵られただけだからよかったものの、運が悪ければ生卵やスプレーをかけられたり毛皮の部分を引っ張られる場合もある。

 香乃子の態度は立派だったと褒めたが、本当は立ち向かってほしくはなかった。怪我する可能性もあるし、ましてや彼女に非はのだから。

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