そして俺は、契約妻に恋をする
　実際に李花が着ていたというコートを見たが、これ見よがしな派手な毛皮が襟を飾っていた。李花は背が高く身長一七〇センチはあり、ヒールのあるブーツを履いていた。長い真っ直ぐな黒髪で、いかにもアジアンビューティ然てしているだけに、人目を引いたはずだ。

　そんな李花を連れて歩く香乃子は気が気じゃなかっただろう。

　今後は決して立ち向かおうとはせず、逃げるか助けを呼ぶようにと厳しく言いたかったが、香乃子が可哀想で叱れなかった。

　彼女はなにも悪くないのだから。

　李花はしばらくショックで泣いていたというから、いくらか反省しているといいが。

　一ノ関李花。母が若い頃から通っている華道の家元の一人娘である。

　彼女の母とは同じ頃に教室に通い始めた長い友人で、李花が生まれた頃から見てきたこともあり、母は彼女をまるで親戚の娘のように可愛がっている。

　そんなこんなで俺も李花を子どもの頃から知ってはいるが、見かければ挨拶を交わす程度で親しいわけじゃない。

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