そして外交官は、契約妻に恋をする
『朝行って夕方にはパリに戻るの。ほんの数時間だけなんだから、いいでしょ。行きはユーロスター、帰りは飛行機でチケットは取れそうなのよ。李花ちゃんユーロスターに乗ってみたいんですって』

 ちょうど母の友人の娘がユーロスターでロンドンに来る用事があるらしい。

「いや、そうは言っても。その友人の娘は?」

『だめよ、ロンドンには用事があって行くの。真司、あなた、一ノ関さんには随分お世話になってるでしょ。華道の――』

 延々続きそうな説教に負けて俺が折れた。

 李花の母親は華道の家元として、外交では世話になっている。東京にいた頃も各国の大使館で生け花のワークショップを開催や、時には海外まで出向いてもらったりする。無碍にできない。

 香乃子には頼めないな……。

 またなにか李花が問題を起こすかもしれないし、せっかく体調が戻ったばかりの彼女に無理はさせられない。幸いというか李花が来る日は休日だ。俺が案内できる。

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