そして外交官は、契約妻に恋をする
 キャーっと地団駄を踏むリエちゃんと、路地裏の小さなカフェに入る。

 誰にも話は聞かれたくないが、見回したところ幸い会社の人はいないようだ。

 ひとまずランチを注文したところで、リエちゃんが瞳を輝かせて身を乗り出してくる。

「なになに、もう結婚決まったの?」

 自分で決めたわけではないが、溜め息混じりにこくりと頷く。

「そう、なるかな……」

「いいなーー。あんなイケメン私なんて見たことすらないのにー。しかも外交官だなんて、どうしよう!」

 親から預かった彼の写真をリエちゃんには見せてあった。自分のことのように興奮し、のけぞって足をばたばたさせるリアクションに思わず笑った。

「それで? やっぱり仕事は辞めちゃうの?」

「うん。決まれば早いと思う。三月の中旬にはロンドンに行かなきゃいけないみたいだから」

 披露宴をする余裕もないそうだ。身内だけで結婚式を済ませて、入籍をして、いきなりロンドンで一緒に暮らし始める。

 これはビジネス結婚だから。

「そっかー」

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