そして外交官は、契約妻に恋をする
 料理が運ばれてきて、話は中断だ。

 ガパオライスのプレートランチには、私の好きなタイ風春雨サラダが添えてあった。

 おいしいねと食事を楽しみながら、こんなふうに彼女とランチを楽しめるのはあと何回だろうと考えた。

 すでに二月中旬だ。このまま結婚が決まれば今月中に辞めなければいけない。社員規則では二カ月前には退職届けを出す決まりになっている。父に言ってみたが、鼻で笑われた。

『法的には二週間でいい。そんなことも知らんのか』

 父は、私は政略結婚以外使い道がないと思っているんだろう。

 桜井家は私の曾祖父の時代から海運業を営んでいる。父が一族の長で、業界有数の売り上げを誇る『日本サクラ商船』の代表だ。兄は子どもの頃から帝王学を学び、私とは一線を画している。

 期待はされなくても、私も桜井家の一員として、日本サクラ商船の子会社、SKシップパートナーズに就職し、頑張ってきたつもりだ。

 父の呆れたような表情と口調を思い出し悲しくなる。

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