そして俺は、契約妻に恋をする
 私が予定どおりにドライフルーツのケーキを作り、午後から骨付きの鶏もも肉とジャガイモをオーブンで焼き、彼がパエリアを作った。コッツウォルズの別荘での楽しかった夜を思い出すメニューに、胸が弾む。

「すごく美味しそう。真司さんのパエリア、もうすっかり得意料理ですね」

 できあがったパエリアは、赤いトマトにエビ、ムール貝にパプリカと絶妙なバランスで配置されている。

 私が作るとどうしても等間隔にしてしまうが、彼の場合は豪快で自然だ。しかも底の焦げ具合といい、食べると本当に美味しいのだから驚いてしまう。

「二回しか作ってないけどな」

 彼は笑うが、一度しか作っていないのに段取りに迷いがないのだから感心するばかりだ。

「なにをやっても上手だしすごいな」

「そんなことないさ、細かいことは苦手だし。君こそすごいじゃないか。料理はなにを作っても美味しいし、驚くほど人付き合いも上手いし」

「料理は好きだから……」

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