そして外交官は、契約妻に恋をする
 よかったと思いながら瞼を閉じると、唇が重なってくる。

 優しい彼からの口づけは唇が触れるだけではなくて、最初から熱くて深いキス。覚悟もないまま、沸き上がる熱い感情に呑み込まれていく。

 薄く開けた目に大きなクリスマスツリーが映る。

 東京から遠く離れたロンドンの夜。どこか非現実的で、だからこそ言えた私の願い。

「香乃子、俺は君が好きだ」

 彼は私の頬を包み込み、甘く囁いてまたキスをする。

 すべる彼の長い指がガウンの紐を解き、パジャマの中に忍び込んできて、未知の扉を開ける怖さと言い知れぬ甘さに体が震えた。

 肌に直接感じた彼の指先が、秘めた感覚を呼び覚ますようにさわさわと撫でていく。みぞおちから上に伸びてきて。

 刹那、ハッとするも声は、彼の唇にかき消された。

 逃げようとして、捕まって。避けようのない淫靡な波に呑み込まれていく。

「かわいいな、君は本当に」

 真司さん……。お願いだからそんなふうに言わないで。

 すべてが甘く蕩けてしまう。まるで蜂蜜の海に抱かれているように。


< 97 / 236 >

この作品をシェア

pagetop