副社長の甘い罠 〜これって本当に「偽装婚約」なのでしょうか?〜
「そうだな、直近で婚約者同伴のイベントごとは無いから……あぁ、まずは倉田さんの実家にご挨拶に行こう」

「えっ うちですか?」

「あぁ、だからまずは、親御さんに『結婚を前提にお付き合いしている人がいるから、紹介したい』と連絡を入れてほしい。

 親御さんのご挨拶が終わったら、近いうちにうちの親とも顔合わせをしよう。紹介したい女性がいることだけは、先に連絡を入れておくよ」


(顔合わせって、社長かぁ…恐れ多いし、急に緊張してきたな…)

ぷっと副社長が吹き出す。何だろう?と思って見上げると、


「倉田さん、考えてることが全部顔に出てるぞ」

「副社長、エスパーですか?」

「君が正直過ぎるんだよ。まぁ社長と会うのは緊張するか。でも、倉田さんなら大丈夫だ。

 それに父はまだ現役だから、今も日本全国を飛び回ってる。日程調整できるのは、少し先になりそうだな」

「分かりました。心の準備、しておきますね」

 
その後、私の家族へ挨拶に行く候補日をいくつか出して、プライベートの連絡先も交換した。
 

偽装婚約をした、という実感はまだあまり無いけれど、メッセージアプリに「七瀬飛鳥」という名前が表示されたのを見て

(あぁ、これは本当なんだ)

と不思議な気持ちになる。


足早に客室を後にし、自宅に向かって歩きながら(お母さんになんて連絡しよう…)と考えていた。

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