副社長の甘い罠 〜これって本当に「偽装婚約」なのでしょうか?〜

「へぁ!? そ、そんなことないですよ?……というか、セクハラで通報しちゃいますよ?」

「お〜〜怖っ 俺は恋愛熟練者だから、そういうの敏感なんだっつーの」

「この前『恋愛熟練者』って言ったの、もしや根に持ってます?」

「いや、むしろそれを俺のキャッチコピーにするわ。ほら、早くゲストの所いけいけ」


しっしっと追い払われる。客室課支配人であり私達のボスである庄司さんは、いつもふざけた感じだけれど、人の機微にはとても敏感だ。


「色っぽい」と言われた瞬間、内心は(え?!飛鳥さんと散々致したのがバレた!??)と大慌てだった。

これからゲスト対応をするのだから、しっかりしないと。そう自分に言い聞かせながら、12階に向かった。
 

***


ーーーコンコンッ

「客室係でございます」

ガチャッと扉が開き、優しそうなご年配の男性が顔を出した。70代半ばだろうか。

「あぁ、忙しい所すまないね」

「こちら、そばがらの枕になります。その他に何かお困りごとはございませんか?」

「あ、もし可能であれば、テレビの切り替えが上手くいかなくて……教えてもらえるかい?」

「はい、もちろんです。失礼いたします」


そう言って中に入っていく。意外と、テレビのリモコンの操作方法を聞かれることはよくある。切り替え方法を説明していくと、徐々にリモコンの操作以外の話に発展した。


「久しぶりにホテル・ザ・クラウンに来たけれど、客室内も結構改装したのかな? 随分変わったんだね」
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