副社長の甘い罠 〜これって本当に「偽装婚約」なのでしょうか?〜
全てを話し終えると、庄司さんは水嶋専務に対して怒りを露わにしていた。
「あの野郎は本当に……どこまで卑劣な奴なんだ…!自分では直接手を下さず、自分の部下にやらせたみたいなもんじゃねぇか。ったくよぉ…倉田支配人を返してくれよ……っ!」
庄司さんは自分が客室課支配人になっても、私の父のことを話す時は「倉田支配人」と呼んでいた。とても、尊敬していたそうだ。
「具体的な証拠が無いと、なかなか罪を追及するのは難しいですよね…?」
「そうだな、もう17年も前だし、なかなか証拠も出てこないだろうな。まぁでもあの専務、今の地位になってから他にも色々やらかしてそうだし、副社長がなんとかするんじゃねぇか?」
「そうですね…。それにしても、なんでこんなことをしたんですかね? 昔は業務にやる気もあって人当たりも良かったなんて話も聞きますけど……いつからお金や権力にしがみつくようになったのか、すごく疑問で」
そう、専務を昔から知っている人は少なくなってしまったが、それでもその頃から専務に信頼を置いている人もいるのだ。
「……そうだな、昔はあんな感じじゃなかったらしいな。特に専務になってからはどんどん横にもデカくなってるし、態度もデカいよな。
あ、そういえば、倉田支配人が言ってたな…」
「え、父はなんと言っていたんですか?」
「水嶋専務、当時はフロントマネージャーだから、水嶋マネージャーだな。水嶋マネージャーは、ホテル・ザ・クラウンが福岡に進出したあたりから、人が変わったようだったって。とはいえ仕事は出来るし、実績も出していたから特に上から何か言われることもなかったみたいだけど」