副社長の甘い罠 〜これって本当に「偽装婚約」なのでしょうか?〜

父の日記を開くとき


庄司さんの優しさに甘えて、今日は早退することにした。入社6年目を迎える私でも、こんなことは初めてだ。少数精鋭でシフトを回しているから穴を開けられないし、元々体が強いので休むことがなかった。


平さんと高橋さんには「すみません、宜しくお願いします」と伝えると、「先輩、体調悪いんですか!? 心配です…」とか「今日はゆっくり休んでくださいね」とか、気遣う言葉しかなくて感謝した。

庄司さん含め、客室課は本当に良い人だらけだ。


(こういう雰囲気とか、文化を作ったのもお父さんだったりして?)


そんなとこを考えながら、飛鳥さんの自宅マンションに向かった。

帰ったらやることは決まっている。ゆっくり休んでいる場合ではなかった。

マンションに戻って最初に向かったのは、私用の部屋として借りている客間だ。クローゼットにしまっておいた、古めかしい段ボールを引っ張り出す。

 
(とうとう、これを開ける時が来たか……)

 
今までずっと見ることができなかった、父の日記を読むことにした。

もしかしたら、水嶋専務に繋がる何かが書いてあるかも知れない。父の死の真相も知りたい。そう思い、日記数冊を手に取ってリビングのソファに腰をかけた。

ぺらぺらとページをめくる。父の筆跡が酷く懐かしく思えた。日付を見ると、父が亡くなるより10年も前から、不定期で日記をつけていたようだ。そう、私が生まれた頃からつけ始めていることに気付いた。


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