副社長の甘い罠 〜これって本当に「偽装婚約」なのでしょうか?〜
当時小学生の俺は、父や祖父が経営するホテル・ザ・クラウンによく入り浸っていた。
家になかなか帰ってこない2人が、いつもいるのはどんな所なのか? と、気になっていたというのもある。
「おじいちゃんとお父さんが経営するホテルは、本当にすごいなぁ…僕もいつかは2人のようになりたいな」
バックヤードを歩くと、俺のことを知らないスタッフも多いから怪しまれてしまう。基本的にゲストが利用するような場所を探検していた。
その日、今日もホテルを散策していると、誰かの啜り泣くような声が聞こえた。
「うぇーん、ここ、どこ〜〜〜」
「きみ、どうかしたの?」
「ふぇ?」
そう言って、小さな女の子がくりっとした目をこちらに向ける。
「おにいちゃん、だぁれ?」
「僕は、えーと……お父さんがここのホテルで働いてるんだよね、だから今日ここにいる」
「そうなんだ!じゃあ、みおといっしょだね」
「みおちゃんって言うの? みおちゃんのお父さんもホテルで働いているんだね」
「おにいちゃん、お名前は?」
「僕は、飛鳥だよ」
「じゃあ、あーくん!」
「あーくんか…なんか新しいな。でも、よろしくね」
「あーくん、みおとあそぼ!!」
「え? 迷子になってたんじゃ……」
そう言ってグイグイ手を引っ張る。2人でホテル内や外も含めて探検し始めた。「みお」より自分の方がホテルに詳しい。彼女が知らなそうな場所にも、案内してあげた。