副社長の甘い罠 〜これって本当に「偽装婚約」なのでしょうか?〜
別のフロアに行くと、ちょうど結婚式の前撮りをしているカップルがいた。純白のウェディングドレスと黒いタキシードを着た2人の、仲睦まじい姿を垣間見た。
「おひめさま、すてきだねー」
「うん、2人とも素敵だね」
「みおも、おひめさま、なれるかな?」
「うん、いつかなれるよ」
「おひめさまになったら、あーくん、いっしょにあるいてくれる?」
「え!?」
驚いてみおの方を見るが、当の本人は何も意識していないようで、ぽや〜んとカップルを見ていた。
その後もみおと、色んな所を探検した。最初に会った時は泣いていたみおも、それを忘れるくらいケラケラ笑ったり、突然危なっかしい行動を取ったり、色んな意味でとにかく目が離せなかった。
俺は俺で、久しぶりに声を出して笑った気がする。
(もしも僕に妹がいたら、こんな感じだったのかな)
以前母から、「飛鳥には弟か妹が生まれる予定だったのよ。今は天国にいるんだけどね」と教えてもらったことがある。それが流産だったと理解するのは、もう少し後のことだけど。
「みおちゃんのお父さんは、ホテルで何の仕事してるの? フロントかな?」
「ううん、きゃくしつか、っていってたよ! パパね、かっこいいホテルマンなんだ〜」
「そうなんだ」
「あーくんのパパも、かっこいい?」
「え!? うん、多分、かっこいいと思う」
忙しくてなかなか家に帰ってこないし、一緒にご飯を食べることも少なくて、正直寂しいと思うことの方が多かった。でも、仕事をする父は、きっとかっこいいんだと思う。みおが誇りに思うようなパパが、社員として働いている会社なんだから。