副社長の甘い罠 〜これって本当に「偽装婚約」なのでしょうか?〜
レストラン周りを2人で歩いていると、突然大人に呼び止められた。
「澪!!探したんだぞ!」
「パパ〜〜〜〜っ!」
「あれ、君は、七瀬副社長の……」
「はい、息子の飛鳥です」
ペコっとお辞儀をする。
「こんにちは、客室課の倉田正です。いつも君のお父さんには沢山お世話になっているよ。今日は迷子になった澪の相手をしてくれていたんだね? 本当にありがとう」
「いえ、無事会えてよかったです」
「あーくん、またね〜!」
「澪、そんなに仲良くなったのか?? 飛鳥くん、申し訳ない。娘は迷子になったにも関わらず、とても楽しかったようだ。また遊んでやってくれると嬉しい」
優しく微笑む、みおのお父さん。きっと父が言っていた「頼りになる倉田さん」とは、この人のことなのだろう。
みおと離れるのは少し寂しく、胸の辺りがチクッとするような感覚だった。でも、「みおのパパ」がここで働いているんだ。きっとまたすぐに会える。
そう願って、笑顔で手を振って見送った。
今となってはこれが、俺にとって遅めの初恋だったようだ。
***
次に澪と会ったのは、それから3年後だった。
この3年間で俺は声変わりもして、一気に身長も伸びた。どんどん大人に近づいているような、でもまだ子供のような不思議な感覚だった。
(自分も父や祖父のように七瀬ホールディングスで働くのか、それとも違う選択をするのか…)