副社長の甘い罠 〜これって本当に「偽装婚約」なのでしょうか?〜
澪が驚いたような顔をしている。色々と話を聞く中で思い出したんだろう。
「そうだ、あーくん…!!」
(……最初の感想が、そこかよ!)と突っ込みを入れたくなった。いや、色々思い出してくれて良かった、と思うべきか? 澪ってやっぱり、少し天然なところがあるよなと思う。
「父が亡くなって、辛い時期が続きました。私も早く父のところに行きたい、もう人生を終わりにしたいと思うこともあったのは事実です。でも、あの時のあーくんの言葉が記憶の片隅にあったんだな、と今では思います」
「そうか、澪が生きていてくれて、本当に良かったよ……」
そう言って澪をぎゅうっと抱きしめる。澪は頬を染めながら、俺の腕の中で「ふふ」と笑っている。
「前に映画行った時『澪は泣き虫だな』って言ってたのは、そういうことだったんですね。確かに2回とも泣いてるし……」
「あぁ、そうだな」
「そっか〜でも、あーくんが飛鳥さんで、飛鳥さんがあーくん…」
「澪、おんなじこと言ってるし、若干困惑してるだろ」
「え、だって全然当時と雰囲気違くないですか!? でも、なんで今まで気づかなったんだろう私……ちょっと凹みますね」
「なんで? 澪は凹む必要ないと思うけど?」
「だって、飛鳥さんは覚えててくれたのに、私は思い出せなかったんですよ? それがなんか悔しくて…」
「でも、もう全部思い出したんだろう?」
「それもそうですね。あーくん」
「えっ 俺、これからあーくんって呼ばれるの? なんか急に呼び方変わるの、恥ずかしいんだけど」