副社長の甘い罠 〜これって本当に「偽装婚約」なのでしょうか?〜

全てが明るみに出る時 ー飛鳥sideー

澪が腕の中で、うとうとしている。
情事が終わった後、まどろみながら澪が言っていたことを思い出していた。


「飛鳥さん」
「ん、どうした?」
「専務のことは、許せそうにありません」
「うん、そうだな」
「でも……父や、家族の思い出が詰まったホテルのことは、嫌いになれません。それに、ホテルの仕事も結構好きなんですよね……。父と同じで」
「そうか」

そう返すと、澪は眠気が限界にきたのか、目を瞑ってウトウトし始めた。


水嶋専務の不正の数々は、ほぼ裏が取れた。大成も通常業務の合間に、秘密裏によく動いてくれた。

あとはどのタイミングで、奴を断罪するかだ。専務は専務で、先日の俺と澪の写真の件を、役員の前で指摘するチャンスを伺っているだろう。

それを達成するのに打ってつけなのが、3ヶ月に1回開催されている取締役会だ。本来はそんな話をする場ではなく、経営の意思決定をする場なのだが……。

次の取締役会は、今週開催される。そこに向けて着々と準備を進めていた。


***


「澪、おはよう」

「んん……おはようございます、飛鳥さん。今日は早いですね。早めに出社される感じですか?」

「うん、澪と同じ時間には出ようと思って。今日は大成と打ち合わせしながら車で行くから、澪も一緒に行こう」

「え、打ち合わせ、聞こえちゃうの大丈夫ですか?」

「あぁ、水嶋専務の件なんだけど、今週の取締役会で全て明かそうと思ってて、澪も関わってくると思うからさ」

「なるほど。では、ホテルまでご一緒させていただきますね」


その後は2人で軽くご飯を食べて、マンションを出発する。朝に弱い大成が、少し集中力の切れた顔で運転しながら登場した。
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