副社長の甘い罠 〜これって本当に「偽装婚約」なのでしょうか?〜
「大成、おはよう。すごく眠そうだな」
「いやぁ、朝弱いんですよね…でも、副社長に会うとスイッチ入るので大丈夫ですよ!」
「また事故に遭わないか不安だな」
「荒木さん、おはようございます!」
「あ、澪さん、おはようございます!」
「大成、いつから澪のこと名前で呼ぶ仲になったんだ?」
「ヒィッ 俺のボス、嫉妬で殺気立ってる…!怖過ぎて余計目が覚めました」
「飛鳥さん、そんなに怒らないで…?」
ふん、ここは澪に免じて許してやろう。
大成め、助かって良かったな。
「じゃあ移動しながら、今週の役会の段取りについて相談しよう」
そう言って車に乗り込む。今日は澪と2人で後ろの席に乗り込んだ。座席に座ってから、澪の手を握る。
このタイミングで手を握られると思っていなかった澪は、ビクッと反応した後、無言で顔を真っ赤にしていた。声のトーンを落として、怒った口調で話しかけてくる。
「……飛鳥さんっ! 流石にここでは……」
俺は手を離すつもりもないので、普通の声量で返す。
「ん? どうした? 澪」
「……もうっ 知りませんっ」
そう言いながらも、澪は手を握り返してくれた。
あー幸せ過ぎる。この幸せをちゃんと守らないとな。
「今回の役会の決議事項はそんなに無かったはずだな。15分もあれば終わりそうだ。でも、この15分が勝負だな」
「はい、水嶋専務はここぞとばかりに、先日全社に配信された副社長と澪さんの写真の件に触れるでしょうね。自分が配信の手配をしたことは棚に上げて『副社長は何をやってるんだ』って、絶対言いますよ」