副社長の甘い罠 〜これって本当に「偽装婚約」なのでしょうか?〜
水曜日、取締役会が始まるまで、あと10分となった。
澪が青木様(今日はゲストでは無いので青木さん)に電話をしてホテルに来てくれることになった。倉田支配人のためなら、と快諾してくれたそうだ。
会議室近くの別室で、澪、竹田、青木さんは待機することになった。これで全員、役者は揃った。
ふぅ、と一息つく。専務の悪事を役員陣の前で晒す、という大仕事に少し緊張していた。
「よし、行くか」
そして、取締役会は始まった。
***
今日取締役会に参加しているのは、代表取締役である父と、水嶋専務、常務、取締役3名、そして副社長の俺の計7名だ。
水嶋専務は席に座る前に俺を一瞥し、「ふん、来たか」と言いながら座っていた。俺が逃げ出して、役会に参加しないとでも思ったのだろうか。
役会の決議事項も全て確認し、会も終わりに近づいた時だった。
「私も取り上げたい事項があるのだが」
「はい、水嶋専務。どうされましたか?」
「先日全社にメールが出回った、七瀬副社長の件ですが、あれはいかがなものかな? 役員の皆さん、何とも思いませんでしたか?」
(……予想通り来たか)
ねっとりと、まとわりつくような視線をこちらに向ける。水嶋専務派の田所取締役も、同調するように発言した。
「メールの件は私も驚きました。七瀬副社長、あれは本当なんですか? 婚約者がいながら、別の女性と男女関係にあるというのは……異性関係は個人のこととは言え、ホテルの信用にも関わるのでは?」
「……事実とは全く異なる内容で、大変驚きました。まるで、誰かが意図的に、都合の良い部分だけを切り取ったかのような写真だったもので」
ちらりと水嶋専務に視線を向ける。