副社長の甘い罠 〜これって本当に「偽装婚約」なのでしょうか?〜
「はい、私に任せて頂けるのであれば、全力で努めます」
「そうか、それなら安心だ」
そう言って、父はニッコリ微笑んだ。相変わらずがっくりと項垂れる専務を、大成と鬼頭が担いで会議室の出口へと向かう。
「あ、水嶋専務」
そう呼びかけると、専務がピタッと止まる。背を向けたまま「なんだ?」と答えた。
「もう一つ、専務にプレゼントがあります」
「……もうこれ以上は、勘弁してくれ」
力なく言った専務は会議室を出ていった。
「飛鳥さん、プレゼントって何ですか?」
「ん? 多分すぐそこにある人がいるから、澪も聞こえると思うよ」
「そうですか?」
そう言うと、皆が静かに聞き耳を立てる。突然聞きなれない声が聞こえてきた。
「おい、水嶋!」
「え……え!? 三浦さん? なぜここに!」
「お前、全部聞いたぞ。まったく、最近わしの所に顔を見せないと思ったら、随分と偉くなりおって。いいか? 全ての罪を償ったら、わしの所に戻ってこい!行く宛のないお前を、一から叩き直してやるからな」
「三浦さん…」
また水嶋専務は泣いているようだ。
「え、飛鳥さん、三浦さんって私が前に空調の対応をしたり、夜中までかかって指輪を見つけた方で、お礼に奥様から『博多 通りもん』を頂いた……その三浦さん??」
「あぁ、三浦さんは福岡の名士で、複数の旅館を経営しているんだ。水嶋専務が子供の頃からの付き合いみたいだよ」
「えぇ……飛鳥さん、ものすごいプレゼントを最後に用意してたんですね」
三浦さんに関しては、水嶋専務について色々調べていく中でその関係性を知った。
生きる希望を持たせるなんて、俺は甘いかもしれない。ただ、自ら命を投げ出すことなく、生きて償ってもらわないと困る。
取締役会はかなり時間を延長したが、この時点でお開きになった。青木さんや竹田には礼を言い、会議室には澪と俺、父の3人だけが残った。
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