副社長の甘い罠 〜これって本当に「偽装婚約」なのでしょうか?〜
「倉田さん、私のせいで迷惑をかけて申し訳なかった」
父は澪に向かって深々と頭を下げる。
「社長、そんな、頭を下げないでください…! 社長が直接何かした訳ではありませんし。むしろ、父との思い出のホテルを、長年守ってくださりありがとうございます」
「澪……」
父は俺の様子を見て、ふふと笑う。
「飛鳥は大事な女性の前では、そういう表情もするのか。親なのに知らないことが多すぎるな。それもまた反省だ」
「父さん…」
「私も早く退任して、孫の相手でもしたいものだ」
それを聞いた澪が、ボンッと顔を赤く染める。
子供は俺しかいないので、孫というのは「俺と澪の子供」ということを察したのだろう。
「父さん、澪は真に受けるから、あんまり揶揄わないでください」
「揶揄ってなどいない。私は本当に孫が早く欲しいんだ」
「全く……未だに全国飛び回ってる現役社長が、何を言ってるんだか……」
それを聞いた澪は、さらに(ま、孫…!?飛鳥さんと私の!?)とあわあわしている。口には出していないが、何を考えているか丸見えだ。
「澪、父が言っていることは気にしなくて良いから」
「え、でも…」
「そうだ飛鳥、まだ両家顔合わせができていないじゃないか。早くやろう。今週末とかどうだ?」
「みんなの予定というものがあるでしょう……全く、本当せっかちなんだから」