副社長の甘い罠 〜これって本当に「偽装婚約」なのでしょうか?〜
「澪、考えてること筒抜けだぞ? 一人で不安になるくらいなら、全部ぶつけて? あと、もうすぐ両家顔合わせもあるし、澪が俺から逃げようとしても絶対離さないから」
飛鳥さんのまっすぐな言葉は、すぐに私の不安をかき消してくれる。私はその想いに答えようと、ぎゅっと飛鳥さんにハグをした。
***
そして、とうとう両家顔合わせの日を迎えた。
場所は飛鳥さんが選んだ、とある料亭の個室だ。
開始時間の少し前に、両家の面々が到着した。
私の家族は母の清香、弟の蓮、継父の薫さんで3人。対して、飛鳥さんの家族は現社長であるお父様、初めてお会いするお母様の2人だった。
「いや〜清香さん、ご無沙汰しております。もう17年ぶり、ですかね?」
社長が、母に気さくに話しかけた。
「ご無沙汰しております。社長もお元気そうで、安心いたしました」
母は深々と頭を下げた。
「澪、社長はね、お父さんのお葬式に来てくれたのよ。その後も心配してたまに連絡下さったり、資金援助も申し出て下さったけどお母さん断っちゃって。ずっと脛をかじる訳にいかないじゃない?」
「そんなことがあったの?! 社長、その節は本当にありがとうございました」
私もそれを聞いて、社長に深々と頭を下げた。
社長も、その隣にいた奥様も、柔らかい笑みをこちらに向けていた。
「それでは、改めて自己紹介をさせてください。私は七瀬飛鳥で、父の七瀬隆之、母の七瀬梢です。皆さん、どうぞ宜しくお願いいたします」