副社長の甘い罠 〜これって本当に「偽装婚約」なのでしょうか?〜
「こちらも自己紹介させて頂きますね。私は倉田澪で、母の北原清香、継父の北原薫さん、そして私の弟の倉田蓮です。私と弟の蓮は、亡き父の苗字のままです。本日はどうぞ宜しくお願いいたします」
その後は、料亭の和食を楽しみながら、それぞれ会話を楽しんだ。相変わらず母はよくしゃべる。薫さんとホテル・ザ・クラウンで出会った時の話や、昔父が生きていた頃によく食事に来ていた話もした。
子供の頃、2度飛鳥さんと会ったことがある話をしたら、皆驚いていた。特に母は、
「確かに、澪がホテルで迷子になったこと、あったわね〜!すっかり忘れてたわ。あの時助けてくれた好青年は、飛鳥さんだったのね。蓮、覚えてる?」
「いや、姉さんが7歳ってことは俺4歳でしょ? 流石に覚えてないよ」
「2人の出会いも、ホテル・ザ・クラウンだったのねぇ。しかも、随分と前に出会ってたなんて、ロマンチック。ふふ、運命だったのね!」
母はやけに楽しそうに話している。
飛鳥さんのお母様・梢さんは、元々病弱と飛鳥さんから聞いていたが、私の母とは対照的に口数が少ない。静かに、でも優しく微笑んでいた。
そんな梢さんにもお構いなしで、母は社長と梢さんの馴れ初めを聞く。
「社長と梢さんはどちらで知り合ったんですか?」
「え、それ俺も知らないです」
飛鳥さんも興味を示した。社長と梢さんは仲睦まじげに目を合わせる。
「私達も、出会いはホテル・ザ・クラウンなんですよ。当時、父からは見合い話を何度も勧められましたが、同じくホテルで働いていた梢に一目惚れしまして。
ただ、梢はあまり体が強くなかったので、そろそろホテルを辞めようかと思っていると聞いた時は、まだ付き合ってもいないのに、いてもたってもいられずその場でプロポーズしてしまいました」
「えっ!付き合ってもいないのに!?」