副社長の甘い罠 〜これって本当に「偽装婚約」なのでしょうか?〜
そして両家顔合わせの会は、この後お開きになった。帰る前にお手洗いに寄ると、出た所に弟の蓮が立っていた。「また同じ展開……?」と目を丸くする。
「蓮、どうしたの? また飛鳥さんのこと認めてないって話?」
「いや、違うよ。姉さんと七瀬さん、前よりずっと距離が近くなったなと思って。お似合いだなと思ったよ」
「蓮……」
「姉さん、絶対に幸せになってね」
弟からのまさかの祝福に、ついハグしてしまいそうになった。その瞬間、飛鳥さんに声をかけられる。
「澪、ここにいたのか」
「……七瀬さん、もしかして少しヤキモチ焼きました?」
「蓮くん、君、可愛げがないね」
「???」
2人の間で成立している会話が、私にはよく分からず、はてながいっぱい浮かんでしまう。
なんでちょっとバチバチ火花が散っているんだろう。
「2人とも、仲が悪いのは嫌よ?」
「いや、仲悪くないよ。義弟くんも可愛いなと思って」
「まだ義弟じゃないです」
「蓮!もう、2人とも良い加減にしてっ!」
「ほら帰りますよ!」とグイグイ飛鳥さんの腕を引っ張り、外に出た。そして飛鳥さんの車に乗り込む。弟とのギクシャクした感じにまだ納得はいかないが、今日のお礼を先に伝えた。
「飛鳥さん、今日はありがとうございました。社長も奥様もとても素敵な方で……お二人のようになりたいと思いました」
「そうか、好印象のようで安心したよ。それと、やっと顔合わせが出来て良かったな」
「飛鳥さん、弟とも仲良くしてくださいね?」