副社長の甘い罠 〜これって本当に「偽装婚約」なのでしょうか?〜

そんな話をしながら歩いていると、突然、飛鳥さんが「澪」と呼びとめて立ち止まった。


「飛鳥さん、どうかしました?」

「澪、あのさ……」


前に水族館に行った時、近くの公園で「大事な話がある」と真剣な表情で言われた時と、同じような顔つきをしている。

(確かあの時は、大成さんからタイミング悪く電話がきて、話の途中で勘違いしちゃったんだっけ……)

そんなことを考えていたら、飛鳥さんの真剣な眼差しに視線を捉えられた。


「澪のこと……一生、大切にする」

「……はい」

「一生、側にいてほしい」

「…はい」


そう言って、飛鳥さんは向かい合って私の両手を握る。


「俺と、結婚してほしい」

「……はいっ」

「ちゃんと、プロポーズするのが遅くなってごめん」

「いえ、嬉しいです」

「澪、笑いながら泣いてるの?」

「だって……」


偽装婚約から始まって、ちゃんとしたプロポーズもないまま両家顔合わせも終えてしまった。水嶋専務の一件もありドタバタしていたが、飛鳥さんはちゃんと考えてくれてたんだ……と嬉しくなった。


「いっそ、私からプロポーズしちゃおうかな? と思ってました」

「それは……間に合って良かった……。こんなんじゃ、澪のお父さんに認めてもらえないな」

はは、と自嘲するような笑いを浮かべる飛鳥さん。でも、

「いえ、きっと、最高の息子ができたって喜んでると思います!」


死んでしまった父の気持ちはもう分からないけれど、日記にも『彼のような利発な男と、娘が結婚してくれたら安心して預けられるのに……』と書いてあった。
飛鳥さんへの信頼は、既にあったはずだ。
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