副社長の甘い罠 〜これって本当に「偽装婚約」なのでしょうか?〜
「清香さん、はい、ハンカチ」

ずびずび鼻を啜る母に対し、薫さんがさっとハンカチを差し出す。私まで泣きそうになってしまい、「ごめん、ちょっとお手洗いに」と言って席を立ち上がった。

少し化粧直しをして化粧室を出ると、弟の蓮が立っていた。ここで何をしているんだろう?

 
「姉さん」

「蓮、今日全然話してないじゃない。どうしたの? 体調悪い?」

「いや、体調は悪くないんだけど…。姉さん、本当にあの人と結婚するの?」

「うん、結婚を前提にお付き合いしているわ」

「ねぇ、本当に2人は付き合ってるの?」

「えっ?」


驚いて目を見開く。やはり、弟の蓮は勘が鋭い。それを確認しに、2人きりになれるタイミングを探っていたのだろう。

 
「どうしてそう思うの?」

「七瀬さん、お父さんの件も知らなかったし。なんか2人とも、よそよそしい感じがする。本当に1年付き合ってるのかな?と思って」

「いや、今日は家族の前だし? そんなにいちゃいちゃしたりしないわよ」


苦し紛れに言い訳を並べていく。あぁ、これはボロが出るのも時間の問題だ…。そんな風に考えていたら、飛鳥さんが現れた。

 
「蓮くん、心配をかけて申し訳ない。確かに、澪の言う通りご家族の前だから、あまり甘い雰囲気にならないように気をつけていたよ。それに、俺も緊張していたしね」

「そうなんですね。でも、俺、まだ七瀬さんのこと認めてません」

「蓮! 飛鳥さんになんてこと言うの!」
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