副社長の甘い罠 〜これって本当に「偽装婚約」なのでしょうか?〜
「そうか、蓮くんに認めてもらえるように、頑張らないとな。ただ、これだけは覚えておいてほしい。俺はずっと、澪のことが好きだったんだ。やっとここまで来れて嬉しく思ってる」

「……そうですか、わかりました」

 
そう言って、プイッと蓮はテーブルに戻ってしまった。


「飛鳥さん、すみません。弟が失礼な態度をとって」

「いや、良いんだ。澪も今の言葉、覚えておいてね」

「え、今のって演技ですよね? 私達、偽装婚約だし……」

 
飛鳥さんは意味深な笑顔を向けて、席に戻っていってしまった。

 
“俺はずっと、澪のことが好きだったんだ。
 やっとここまで来れて嬉しく思ってる”


(……どういうこと? まるで、ずっと前から好きだったみたいな言い方じゃない。

 だって、私と副社長が出会ったのって、5年前の入社した頃だし、その後も直接話したのなんて、数え切れるほどしかない)
 

偽装婚約に似つかわしくない、愛の言葉。
あまりにもチグハグで、どれが本当か分からない。

飛鳥さんの本心はどれ?

でも、これは愛のない偽装婚約だ。勘違いしちゃいけない。

頭の中がこんがらがりながら、やっと席に戻った。その後の会話は、あまり覚えていないが、ひとつだけ印象的な会話があった。

 
「飛鳥さん、ホテルでの澪はどんな感じかしら? 実際に娘が働いている所は見たことがないの」

「え、お母さん、恥ずかしいよ。それに飛鳥さんは副社長で色んなホテルを見てるから、一社員の動きまでは……」


それを聞くのは、さすがに無理があるだろう。
そう思っていたのに、飛鳥さんは違った。
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