副社長の甘い罠 〜これって本当に「偽装婚約」なのでしょうか?〜
「澪さんの活躍は、私もよく聞いております。この間、常連客の方が、澪さんの接客に感銘を受けたとおっしゃってました」


え、何その話。私も知らない。


「あら、そうなの? 詳しく聞いても大丈夫かしら?」

「はい。そのお客様は、よくホテル・ザ・クラウンに宿泊されている方なのですが、先日珍しく客室内でグラスを割ってしまったそうで…。

 フロントに電話をしたら、5分もせず澪さんが飛んできたそうなのですが、開口一番『お怪我はございませんか?』と自分の怪我を案じてくれて。

 そして、新品のスリッパを渡してくれたそうなんです。『まだ細かいガラスもあるかもしれませんので、是非ご利用ください』と。

 その後、掃除機やカーペットクリーナーで綺麗に掃除をしてくれたそうです。ただ単に掃除機を持ってくるだけではなくて、ゲストへの心遣いにホスピタリティを感じたと褒めておりました」


この間、20階に宿泊された足立様のことだ。

定期的にホテル・ザ・クラウンに宿泊されている方で、宿泊される時にはいくつか指定の備品を事前にセットしておく必要があるくらいだ。いわば「足立セット」である。

副社長は足立様ともやり取りがあるのか……と驚いた。


「そうなの。澪は仕事もしっかりやっているのね。飛鳥さん、教えてくれてありがとう」


母の安堵した顔を見て、こちらもホッとした。
何歳になっても子供は子供で、親は心配してしまうんだろうな。

今日の顔合わせが、少しでも親孝行になっていたら嬉しい。

その後は他愛もない話をして、この会はお開きになった。


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