副社長の甘い罠 〜これって本当に「偽装婚約」なのでしょうか?〜
「そうだな。別々で暮らしていると、どうしても会話量が少なくなるから。まずはもっと話して、お互いを理解するというのはどうだ?」
「なるほど。偽装婚約者として、より婚約者らしく振る舞うためにも、ですね」
飛鳥さんは運転しながら話しているので、あまり表情は読み取れない。でも、本気なのだろう。
「分かりました。試しに同棲してみて、もし何か不便があれば今住んでるマンションに戻りますね」
「わかった。なるべく不便がないように努める」
「ありがとうございます。細かい決め事はまた後ほど、住み始めてから、ですかね?」
「そうだな、澪は明日も休みだろう? 早速、明日荷物を運び込むのはどうだ? 俺も車を出すし」
「え!良いんですか? というか、お仕事は大丈夫です?」
「あぁ、澪のシフトを聞いて、昨日前倒しで仕事を片付けておいた。あと、万が一のことがあれば、秘書の大成から連絡が来るだろう」
飛鳥さんが「大成」と呼んでいるのは、秘書の荒木大成さんだ。
2人はどうやら幼馴染のようで、以前一度2人でいるのを見かけた時、砕けた雰囲気に「あの副社長が珍しい…」と思った。
「分かりました。では、今日の夜は荷物を少しまとめておきますね」
「あぁ、そうしてくれ」
そんな話をしていたら、あっという間にマンションの前に到着した。
ドアから出てお辞儀をすると、「澪」と声をかけられる。