副社長の甘い罠 〜これって本当に「偽装婚約」なのでしょうか?〜


「また明日な」


そう言って見せる優しい笑みに、胸がきゅうぅぅと締め付けられる。


「はい、また明日」


飛鳥さんの車が見えなくなるまで、その場で見送った。その後は自宅マンションに戻り、バタッとソファに倒れ込んだ。


***


(同棲したら、こんな風にだらけた姿は見せられないよなぁ)


ソファでごろごろして、よそゆき用のフレアスカートが皺になってしまいそうだ。
 
でも、家族の前でなるべくボロが出ないようずっと気を張っていたので、一人になった途端一気に気が緩んでしまう。


もう少し休んだら、同棲に向けて荷物をまとめ始めよう。と言っても、そんなに荷物もないのだけれど。

手元に空の段ボールはないが、海外旅行用の大きなスーツケースはある。それに入れられるだけ入れて、また必要なものはここに取りに来れば良い。

 
「飛鳥さんって、偽装婚約を提案してきたり、突然同棲の提案をしてきたり……本当、突拍子もないというか、全てが規格外よね」

 
つい、独り言が漏れてしまう。
こんなに予測不能な展開なのに、それについていけている自分。

あぁ、そうか。なんでこんな風に飛鳥さんの提案を受け入れられているか、一つ気付いたことがある。

 
「どの提案も、いつも私に逃げ道を用意してくれているんだわ」

 
偽装婚約も、『婚約者らしい振る舞いを求められる時以外はお互い自由に過ごし、干渉しない。お互い好きな人や結婚したいと思う人が出来たら、この偽装婚約は終了』と言っていた。
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