副社長の甘い罠 〜これって本当に「偽装婚約」なのでしょうか?〜
同棲の提案も、今住んでいるマンションは残す前提で考えてくれている。後戻りしようと思えば、まだ間に合う所にいる、ような気がする。
「副社長って、経営者というか、凄腕営業マンというか……交渉上手で、手のひらの上で転がされているみたい。でも、なんだかあまり嫌な気持ちにならないのよね」
そんなことを考えながら、ゆっくりと体を起こし、荷造りを始めた。
***
次の日、飛鳥さんは10時過ぎに私の住むマンション前にやってきた。自分の部屋に飛鳥さんを案内する。散らかっている訳ではないが、なんだか恥ずかしい。
「今日はありがとうございます。こちら、どうぞ」
「へぇ、澪は部屋、綺麗にしてるんだな」
「いえいえ。荷物はここにまとまっています。スーツケースと、収納ケースに入ったものが2つ。あと、この段ボールも」
「荷物少ないな。ちなみにこの段ボールは古めかしいけど、何が入ってるんだ? あ、言いづらかったら答えなくて大丈夫」
「あぁ、これは…」
そう言って、飛鳥さんの言う古めかしい段ボールを見つめる。
「これは、父の遺品の一部なんです。実家にもありますが、母にお願いして一部もらいまして」
「そうだったのか。中には、何が入ってるんだ?」